会社勤務でも独立して依頼を受けても、基本的にエンジニア業務自体は変わりません。しかし、会社勤務のエンジニアから、独立してフリーランスエンジニアになった場合、法人を設立しないのであれば個人事業主として事業を営む必要があります。そして、少しでも経営を上向きにしていくために、登記が必要になる場合があります。また、将来的に個人事業主から会社設立をするような場合は、あらかじめ登記をしておいたほうがいい場合もあるでしょう。この記事では、フリーランスになったエンジニアが知っておきたい登記の知識を中心に解説していきます。
登記とは
登記とは、重要な権利や義務を法律的に保護し、円滑な取引を行うためのものです。フリーランスエンジニアが仕事上の取引をスムーズに行うために登記する場合、法人登記(商業登記)や屋号の登記(商号登記)という方法があります。商業登記は、会社の設立から2週間以内に行う必要があり、守らないと行政罰の対象となってしまいます。
会社という存在自体、社会から信頼されていなければなりません。そもそも信頼されなければ、誰も取引したいと思わないからです。そうした信頼を担保するひとつが商業登記という手続きです。
商業登記においては、商号と呼ばれる会社の名前にあたる名称から、会社の所在地、その目的や資本金の額、取締役など役員の氏名などを登録しなければなりません。 一度登記すると、これらの情報は法務局で誰でも閲覧することができます。このため会社の存在を確認してもらってから取引することが可能です。登記後は、株式会社であれば会社法により決算報告書の公示が義務付けられていますので、健全な会社の状況を公示することができ、取引先は安心して仕事を発注することができます。
フリーランスエンジニアは登記をすべきか?
フリーランスになったばかりのエンジニアは、個人事業主としてスタートする人が大半です。 個人事業主の場合は、基本的に登記は必要ありません。税務署に、個人事業を開始することを示す開業届を提出するだけで完了します。費用はかかりません。提出した書類に不備がなければ、すぐに事業を開始することができ、クライアントと契約したり、案件に取りかかったりすることができます。そのため、まずは個人事業主として届け出を出すことが慣例となっています。 さらに青色申告事業者の登録をすることもできます。この登録は帳簿の負担面が多くなる反面、税金面の優遇があります。
一方、独立する際に、一定の開発案件などの見込みがあり、あらかじめ収入を確保できているような場合は、最初から会社を設立する場合もあります。この場合、前述のとおり登記が必要になります。
法人を設立するにあたり、定款などの書類提出の義務が発生します。また、法人税など一定の税金を納める必要が出てくるということから、ある程度の売り上げが見込めないと法人化をするメリットを享受できません。また書類申請をするのに、個人事業主の開業届は1日で済むのに対して、煩雑な事務手続きがある分、一定の期間と費用がかかってしまいます。
フリーランスエンジニアが登記をするメリット
登記には、商業登記の他に商号登記というものがあります。これは、商号に関して登記をする手続きです。 商号とは、簡単に言うと会社の名前です。名前を登録しておくことで、同じ住所で、他社に同じ名前を使用されることを防止することができます。
東京などの大都市の場合、レンタルオフィスやビルを利用することも多くなっています。特に最近のIT企業は、渋谷など一定の場所に密集しているという現象が起こっています。そのためまったく同じ名前で運営している別会社が存在するという事態を、商号登録をすることで防ぐことができます。
フリーランスの場合でも、屋号を名乗ってクライアントと取引することはできます。屋号で多くの取引先からの信頼を得ることができた場合は、会社を設立した際にそのまま屋号を引き継いで同じ名称を使用したいと考えるのは当然でしょう。しかし、同じ屋号を使用できない場合、違う名称に変更し、1から信頼を得る必要が出てくることもあります。あらかじめ商号登記をしておくと、こうした事態を避けることができるのです。 また、商号登記をすることで、他社が同じ名前を使用したときにその権利を主張することもできます。
商業登記とは、法律の規定に従って取引を行う際に重要だと思われる一定の会社情報を登録することです。法人登記とも言います。商業登記はその会社の実態を知る上で重要です。名称、場所、設立日、目的、資本金、役員(理事)などの記入が義務付けられており、これから取引をしようとしたときに会社の信頼度を測るひとつのツールになりえるものだからです。 そのため、クライアントから見ると、商業登記がきちんとされている法人に仕事を依頼するほうが、個人に仕事を発注するよりも圧倒的な安心感があります。こうした信頼度が高まることが、商業登記の一番のメリットでしょう。
また、個人事業主に比べて資金調達も有利になります。銀行からの融資も受けやすくなります。そうすると、たとえばエンジニアが開発案件を受託した際に、他のエンジニアに手伝ってもらう資金が調達できるということも考えられるため、開発のスピードアップが期待できます。
他方、商業登記や商号登記は一定の費用がかかります。商号登記は登録時に30,000円、商業登記は資本金額に応じて変動します。また一定の必要書類も提出しなければなりません。こうしたコストや煩雑な手間がデメリットだと言えるでしょう。
登記の基本的な手続き
それでは具体的に登記の手続きについてみていきましょう。フリーランスエンジニアが商号登記を行う際は、事業をする場所を管轄する法務局に、必要な書類を持参して手続きすれば完了します。
商業登記の場合は、申請に必要な書類をすべて揃えて、インターネットからの申請や郵送、法務局へ書類を直接提出して完了しますが、はじめにどのような会社の形態にするのか決めなくてはなりません。株式会社にするのか、合同会社にするのかで迷われるかと思います。税金面や責任面などで違いがありますので、きちんと検討した上で、決めるようにしましょう。
提出した書類に不備がみつかった場合は、法務局の担当者から連絡がきますので、それに従って登記申請補正書を記載し、提出します。 商業登記は、手続きがかなり煩雑です。そのため、司法書士や行政書士などの専門家への依頼も検討してみてもよいかもしれません。 最近では、設立の煩雑な事務手続きを代行してくれたり、時間や費用の節約も提案してくれたりするクラウドサービスが多くの企業から提供されています。それらを利用することも検討してみてはいかがでしょうか。
フリーランスエンジニアが登記をする前に準備しておきたいこと
フリーランスエンジニアが登記をする前に準備しておきたいことは、印鑑の作成です。法人を設立する際には、法人の印鑑が必要になります。この他に、個人の実印も必要です。この実印は、印鑑証明書が必要になるため、あらかじめ印鑑登録をしておく必要があります。印鑑証明書の印鑑はなるべく偽造されにくい、特徴のあるものを利用する場合が多いため、持っていない場合は、作成しておくといざというときに便利です。
また、起業するときには会社の種類を検討しておきましょう。株式会社と合同会社で、それぞれどのようなメリットやデメリットがあるのか、確認しておく必要があります。 さらに役員が必要になります。誰に頼むかという点についても登記前に早めに検討しておきましょう。 商業登記には、決めることがたくさんあります。あらかじめ検討できることについては、少しずつ決めておくことをおすすめします。
まとめ
フリーランスエンジニアの場合、最初は個人事業主として仕事をし、やがて事業を大きくしようとして起業する人もいらっしゃいます。
法人化する場合、商号登録や商業登録はさまざまな事務手続きが発生します。いざ起業、というときに慌てて手順や費用などを確認するのではなく、フリーランスになるときに将来の起業を視野に入れながら少しずつ知識を深めていきましょう。
独立して間もないときは業務に集中するのも大切なことですが、売り上げが多くなれば、税金面や信頼面で有利な法人設立も視野に入れておくとよいでしょう。今からでも準備できることは少しずつしておくことをおすすめします。